音楽を聴いている時だけが健常感を感じられる

雑記

唯一の健常空間

友達も恋人もおらず、あらゆる経験が年齢に伴っていない非健常者。そんな人間を救ってくれたのは音楽だった。中学生でカセット・ウォークマンを手にすると、完全に自分の世界に入っていける音楽が好きになった。テスト勉強をするとき。センター試験を受けるとき。通学通勤をするとき。友達はいなかった。でも音楽はいつもそばにいてくれた。

楽器へのあこがれ

音楽を聴いているうちに、楽器にあこがれを持つようになった。かっこよく楽器を演奏している自分を何度も何度も想像した。しかしそこは根がどこまでも飽きっぽくできている人間。ギター、ベース、キーボードに挑戦するもすべて挫折した。ミックスボイスにも興味を持ったが、挫折している。

ライブで感じる健常感

最初に行ったライブは大阪ドームでの『SPEED』のライブだった。同級生の親戚がチケットを複数買ったけど誰も行く人がいないとかそんな理由で連れて行ってもらった。「ラブリー♥フレンドシップ」を熱唱した記憶が残っている。

それから10年ほどはライブとは無縁の人生を送っていたが、働くようになって金銭的な自由を手に入れると、少しずつライブに行くようになる。ソロシンガー、バンド、アイドルのライブに足を運んだ。座ったり、踊ったり、光る棒を振り回したり・・・。

誰とも心を通わせられない自分が、会場にいる他のファンと同じように歌を聴き、そして感動する。紛れもなく自分は健常している。ライブではそう思えた。

同学年のスーパースター

宇多田さん(以下ヒッキー)は同学年のスーパースター。彼女と年が同じというだけで妙な親近感が湧いてきて誇り高い気持ちになる。皆さんにもそういう人はいませんか。

自分と同じ年齢で初めて社会に名前を売ったのは凶悪犯罪者の「酒鬼薔薇聖斗」だった。酒鬼薔薇が『闇』なら、ヒッキーは『光』。16歳のヒッキーはまたたく間にスターとなり、歌番組への出演が決まると周りが騒々しくなった。社会現象だった。もう20年近く前の話である。

先週ヒッキーのライブに初参戦。ツアータイトルは「Hikaru Utada Laughter in the Dark Tour 2018」。ロシア出身の作家ウラジーミル・ナボコフの小説から取っており「絶望の中のユーモア」というような意味らしい。非健常者の自分にも笑いや希望があるのかな。ヒッキーでも絶望を感じることがあるのかな。

今回のライブはチケット抽選に「顔認証システム」を取り入れ、写真が承認されて初めて応募資格を得る、というものだった。抽選発表があり、ライブ一週間ほど前にデジタルチケットが発券された。受付でチケットをもぎる必要もなく、空港でやってるような顔認証で入場。

セットリストは昔の曲から最新の曲まで全20曲。ヒッキーの天才ぶりを決定づけた「First Love」は特に感動した。事前の情報で「ヒッキーのMCはグダグダだ」だと聞いていたが、実際にライブに行くと彼女の偉ぶらず飾らない人柄にますます惹かれてしまった。

ヒッキーの性格がそうだからなのか、来ているファンもどこか大人しめで、オラオラした感じの人は全然いなかった。登録させた顔写真でそういう雰囲気の人を選んだのか?と思ったほどである。写真と動画の撮影も許されており、みんなヒッキーの姿と歌声をスマホに収めようと頑張ってた。

ライブ終了後は幸せな気分で胸が満たされた。ヒッキーが話をするたびに会場の雰囲気が柔らかくなり、みんなが満足した表情になる。光る棒を振り回して熱くなるのライブとは違っていた。

ライブに行って、音楽に触れている時だけが健常感を感じられる。音楽で幸せになりたかった。

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